◇ 一千年の風

「では、アリスが次の風だと両親に教えたのは讃者だったのですか」

問うシオンの前にいるのは、讃者・ソアラだった。

「そうじゃ。それが役目じゃったからの……父親も母親も娘を失わずに色を取り戻す方法を必死で探したんじゃ。 母親なんぞは自ら身代わりになったんじゃが……その場しのぎにしかなれなかった」

遠くを見るソアラにシオンは静かな声で問う。

「御女神が用意した人物ではなかったから?」
「なんにせよ皮肉な話じゃよ。結局アリスはこうやって役目を果たそうとしているのじゃからの。 いや、今はなにより……次の風は彼女なのかもしれないことの方が気がかりかの?」

風貌の変わらない御女神の駒たちの間には、一千年の時が流れていた。
一千年、その区切りは風の代替わりを意味する。

「本当のところはわからないんです。本当に彼女が風なのか。アリスと同じように色魂を宿しているというだけですから」

二つの視線が同じものを見つめる。テーブルに身を預けて眠るアリスよりも幼い少女を。糖蜜色の髪が迷い込んだ風に揺れた。

「讃者、僕は運命を止めるつもりです。同じことを彼女に……彼女でなくとも繰り返して欲しくない」

讃者が目尻を細めて、優しく微笑んだ。窓越しに揺れる木漏れ日が橙色に輝く。アリスはまだここにいた。

「さ、シオン。彼女を連れて帰っておあげ。運命を崩すのは難しいかもしれん。
じゃが、幸運を祈っておるよ」




BLACK World.-01- end.

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